白い鳥

 
最初はエイジさんかと思っていたのだが、客電が消えないうちにみねたが一人でアコギを抱えて出てきていた。あ、ぎんなんからなのか。みねたが、おもむろに椅子に座り、ギターを鳴らす。フロアの前のほうがちょっとだけ詰まって、みねたが歌い始めた。「君が泣いてる夢を見たよ」…1曲目は「人間」だった。さっきちゃんと落ち着いたつもりだったのに、またダメになった。みねたの歌が場内に響き渡り、前のほうにどんどん人が増えてゆく。どんどんどんどん高まってゆくみねたの歌、場内で満ちてゆく熱気。苦しかった。頭の中が、何かでぱんぱんに膨らんでいて、みねたが声をはりあげる度に、それがはちきれて、一気に溢れ出してしまいそうだった。止めようとしても止めようとしても、涙が止まらなかった。みねたの歌のせいなのか、何のせいなのか、よくわからなかったけれど。
歌っているみねたの後ろにいつのまにか他のメンバーも出て来ていて、バンドでの演奏が始まった。照明も途端に明るくなり、前のほうではモッシュが起こり始めていた。みねたは、ギターをエレキに持ち替えて、ステージ上を激しく動き回る。1曲やって、みねたが、ギターを抱えたまま、話し始めた。「あれは、10年前のことだ。18歳だった俺は、ビヨンズを聴いた、ビートルズを聴いた。拝啓、ビヨンズ様、谷口健様。俺は、10年前、ビヨンズに出会った、ニューキーパイクスに出会った。ものすごい衝撃だった。俺は、俺んちの、俺の部屋で、ビヨンズを聴いた。俺は、山形なんていうなんもない田舎で、なんの力も無くて、特に運動が出来るわけでもない勉強が出来るわけでもない、ふつうの高校生をやっていた。そんな俺が初めてビヨンズを聴いて、10年経った。10年、10年経ったら、世界は変わるって、あの頃の俺は思ってた。でも、10年経ったけど、なんも世界は変わってねえ。10年前に俺が山形で見た、真っ黒い真っ黒い空と、今、今日、このダイカンヤマの上にある空と、なんも、違わねえ。相変わらず、真っ黒で、どろどろで、どす黒い空があるだけだ」。「でも…」とみねたは続けた。でも俺はこの歌を歌う、と。「日本発狂」。前のほうのヤング達が一斉にこぶしを突き上げて叫ぶ。「日本発狂!」と。みねたはステージ端のスピーカの上に乗り、自分の服をびりびりと破きながら絶叫していた。続けて「SKOOL KILL」。ギターを置いてマイクだけ持ったみねたが、何度も何度も客席に飛び込む。お尻をむいて見せたり、その半ケツのままで客席に飛び込んだり。チン君が逆さまの体勢でギターを弾き、客席もステージ上もぐっちゃぐちゃになっていた。その様子をちょっと離れた後ろで見ていたら、なんだかもう、どうでもいいやという気持ちになっていた。10年前、私は、みねたのようにビヨンズを聴いていたわけではなかった。ビヨンズの存在すら知らなかったと思う。でも、そういうことじゃない…と思った。たとえ10年前と空の色は変わっていなくても、みねたは、健さんは、歌い続けているから。
みねたがまた話し始めた。「俺は、初めて女の子と付き合ったのが、22歳の時だ。6年前だ。それまで女の子と付き合ったことのなかった俺は、女の子と付き合ったら、それまで見たこともねえ素晴らしい世界が始まるって思ってた。そりゃあ、幸せだったし、うれしかったけども、でも、音楽に出会った時の衝撃に比べたら、10年前のあの衝撃に比べたら、ぜんぜん大したことねかった。女の子と付き合っても、世界なんて変わんなかった。音楽に出会った衝撃に比べたら、ちっぽけなもんだ。あれは、確か、雪の降ってる日だった。俺は、部屋の中で音楽を聴いていて、そしたら、俺が音楽を聴いてるそのスピーカのまるいところの真ん中のところから、白い鳥が飛び出してくるのを、俺は、俺は、確かに、見たんだ。誰も見てねえって言っても、俺は、見たんだ。その鳥だってよ、白い鳥だっつってもよ、薄汚れてて、羽も毟られてボロボロで、きったねえ鳥だ。でも、俺は、それを、今までずっと大事に飼ってる。譲ってくれっていう人も居た、大金を積んでくる人もいた、でも俺は売らなかった。俺は、俺は、ずっと、歌を歌い続けてきて、いつ、どうやって、この白い鳥を見せてやろうかって、みんなの前で放そうかって、そればっかり考えてきた。その鳥を、今、この、キラキラしてる、ダイカンヤマの、ユニットの、この中で、羽ばたかせたいんだ」。みねたは、泣いていた。喋るというか、もう、半分泣きながら叫んでいる状態だった。「…皆さんに、この曲を贈ります」。「夢で逢えたら」。ぎんなんのライヴは言うほど見てないけど、ほんと、いつ見ても、みねたにはウソがない。全身全霊で、歌い、叫んでいる。テーシャツに首タオルしてモッシュに加わりたいとは思わないけど、みねたの歌は何度でも聴きたいし、ぎんなんのライヴを見たいと思ってしまう。演奏がひどくても、歌が上手くなくても、そんなものを軽く超える何かが、彼らにはあるから。
最後は「東京」。もう声なんかすっかり枯れちゃってて、ひどいもんだったけど、でも、なんか、よかった。開演前のもやもやしたものとか、そういうのも、みねたが全部吹っ飛ばしてくれた気がした。すごくすっきりした気持ちで、ビヨンズにも向き合えそうな気がした。ほんと、みねたにはかなわんねー。「東京」を歌い終わってから、他メンバーに「ああもう君達帰っていいよ、君達もう関係ないから」とか言って先に帰らせて、みねたがまた少し話をした。「俺は、ロックとは何だ?って考えました。俺は、お風呂に入って、すっきりして出て来ると、なぜか、うんこがしたくなります。体をタオルでふいて、でもお尻は、まだ濡れたままで、うんこをします。せっかくきれいにしたのにうんこをしてしまって…で、濡れてるからよ、なんか上手くふけねんだ。うん、その感じがロックだと思いました!ありがとうございましたっ!」
2番手エイジさん。予想通りぎんなんの客はごっそり抜けて、前のほうもどこもガラ空き。Kさん(仮)やそのお友達等と一緒に前のほうで見る。ベースボーカルの人が短パンを穿いていた。ぎんなんファンのテーシャツキッズ達といい、今日は元気な?子が多いのね…(違)。なんか、見た位置のせいなのか、ボーカルがよく聴こえなかった。今日は、右側のギターの音がけっこう良いと思った。以前見た時は左側のほうがいいと思ったのだれども。左側のギターの子は、演奏中に、ボーカル君に背中からしつこく絡んで蹴飛ばされたりしてた(そういえばみねたもチン君を蹴っていた)。ボーカル君はMCで「僕は、昔のビヨンズは聴いたことは無かったんですけど…。ビヨンズは、べつに、昔を懐かしんで再結成したわけじゃないと思うんですよね…。なんで、今日は、今のビヨンズを、皆さんも、楽しんで帰ればいいんじゃないでしょうか」とか言ってた。今のビヨンズを楽しめば…って、ねえ?みねたの話にはかなり共感できたんだけど、この時はちょっとカチンと来てしまったのは何故ですか。みねたはみねただからですかそうですか。や、わたし、そんなに盲目じゃないけどね。べつにカリスマとか思ってないしね。
エイジさんが終わったら、なぜかぎんなんキッズ達が一部戻って来てた。アピトのセッティングが異様に長くてちょっとダレたんだけど、今回は、健さんも他の3人とほぼ一緒に出て来て、初めから笑顔で、ちょっとほっとした。前回のAXの時のあのコチコチの表情のままじゃなくてよかったなー…って。歌詞カードを足元に数枚置いて、マイクをスタンドに刺したままの状態で、健さんが「えー、こんばんは。闇の中から、差し込む一筋の光のごとく(…だったかな?)生まれ出ました、ビヨンズです」とご挨拶(←なにげにみねたの話にネタ合わせた?)。その後マイクを抜いて、ステージ左側前方に出て来て「ア、オート、オートグラフィッック」と言ってアピトのほうを振り返り、カウントが入って演奏開始。「AUTO GRAPHIC」。いきなり楽しくてがんがん頭振ってたら、周りのぎんなんキッズ達が微妙に引いていったような気が…(ごめんなさいごめんなさいごめんなさい)。続いて「TOOLS YOU CAN TRUST」。健さんがすんごい上体反らしながら飛び跳ねて暴れてる。ますます楽しい。時折自分の体を自分で抱きしめる(?)みたいになってたり、脇をきっちり締めてマイクを縦に持って歌ってたりとかしてて、きもちわるさも全開。またアピトのほうを振り返って頷くような仕種をしたかと思ったら、次は初めて聴く新曲。つーか、ネストのソロでやってた「緑(色)の光線」!当たり前だけどぜんぜんアレンジが違う(出だしのメロディを異様にはっきり覚えていたので、この曲だということはすぐにわかった)。すごい。あれがこんなふうにバケるとは…。AXで披露した2曲はちょっと微妙かなーって思ってたけど、これは良いかもしれない。うわーうわー。バンドマジックて言葉を思い出したよ…今更ながら(つーか「今更」が多すぎるよy-kさん)。健さんが赤いSGを抱えて、AXでやったほうの新曲×2(これ、どっちも、やっぱり、どうしても、ファウルに聴こえr)。「シルト〜」のほうだったか、間奏でドラムとベースが思いっきりずれて、リズムが変になってた時があった。ギターが悪いのか(←もちろん岡崎さんじゃないよ)、ドラムが悪いのか、ベースが悪いのか…よくわからんかったけど。しかし、これからのビヨンズが主にこういう路線(?)でいくのだとしたら、ちょっとなあ。つーか、もう、ハードでもコアでもないような気が…。以前の曲との差異がありすぎて、同じバンドの曲とはちょっと思えないし。こういう曲調も個人的には嫌いじゃないけど(つーかこれがファウルだったら無問題)、なーんか…ね。てっきんが直立不動でツアーとシングルのことを説明していたのが可笑しかった。それをニヤニヤ見ながら次の曲の準備運動(?)をする健さん。最後は「I CAN'T EXPLAIN」→「WHAT'S GOIN ON」。アンコールは無し。明日もあるから体力温存…なのかしら。なんだかちょっと物足りなかったけど、開演前に一回ボロボロ状態になったりしたこともすっかり忘れそうになったくらい、かっこよかったし、楽しかったから。もうそれだけでいいや。
終わって、今度のクアットロのチケットを購入。さよなら野音ふじふぁぶりっく(…え?)。なんか4人組の人達が来てたり(某さんがきもちわるいのは仕様なので略)、コート着てスーツ着てブリーフケース持って…みたいな人達がいっぱい居たりした。明日はどうなることやら。アンコール、あるといいなあ。
 
 
SET LIST(銀杏)※曲名わかんなかったやつはBさんところから勝手に持ってきましたごめんなさい
 
人間
NO FUTURE NO CRY
日本発狂
SKOOL KILL
夢で逢えたら
東京
 
 
SET LIST(BEYONDS
 
AUTO GRAPHIC
TOOLS YOU CAN TRUST
緑(色)の光線(新曲)
シルトの岸辺で(新曲)
地下室の揺りかご(新曲)
I CAN'T EXPLAIN
WHAT'S GOIN ON
 
 
 
てゆうか公式の12/20@AXのセット、変くない!?(ヤマザーキさん風に言うと)
TOOLS YOU CAN TRUSTが抜けてる。そして、最後はI CAN'T EXPLAIN→FEDDISH THINGSの流れだったはず。。。